クリニック通信

2018年9月24日4種混合ってなあに? 百日咳に注意

こんにちは。連休は暑かったですね。残り少ない残暑を惜しむようにツクツクボーシが精いっぱい鳴いています。クリニックでは花壇のコキアが膨らんですごいことになっています。健兎はちょっと涼しくなったウッドデッキに進出して、何か怪しげなものをもぐもぐしています。「お腹壊すからだめ!」

赤ちゃんがワクチンを受けに行くと医師から言われます。「今日はひぶはいよんこんですね」「えっ?何?呪文?よんこん?飲み会?」「よんこんは4種混合の略号ですよ」「4種混合?リレー?ワールドカップ水泳?」どんなワクチンか、正直小児科以外の医師だって分からないものです。医者の悪いところは時間がないとすぐ略してしまうことと、きちんと説明しないこと。その反省も含めて今日は4種混合ワクチンのお話です。

4種混合ワクチン(DPT-IPV)は「ジフテリア菌・百日咳菌・破傷風菌・ポリオウイルス」の4種類のばい菌に対するワクチンが混ざったものです。これらは感染すると命に係わる程に重症化し、重い後遺症を残すこともあります。幸い3つはワクチンのおかげで罹ることがなくなりました。ただ、百日咳だけはいまだに流行していることが問題になっています。

まず4つのばい菌による病気の特徴を簡単に説明します。

ジフテリア:扁桃腺が膿で真っ白になり、菌の排出する毒素が心臓や神経の合併症を起こし、死亡率が10%もありました。1945年頃は大流行しましたが、ワクチンの普及で激減し、1999年を最後に発症報告はありません。

破傷風:土の中に潜んでいます。空気が嫌いなので擦り傷や切り傷などの浅い傷なら問題ありませんが、古釘を刺したり犬に噛まれたりで、空気の届かないような深い傷では繁殖します。筋肉の痙攣からはじまり、呼吸筋が麻痺して重篤な呼吸障害を起こします。ワクチンによって発症する人は殆どいなくなりましたが、高齢の方などワクチン免疫の薄れた方では稀に発症することがあるので、汚れた深い傷を負った場合には発症予防に破傷風トキソイドと言う薬を投与します。

ポリオ:神経合併症を起こして麻痺を残します。1960年頃に大流行し、日本でも小児麻痺を残すお子さんが大勢いました。やはりワクチンで激減し、2000年にはWHOが西太平洋地域の根絶宣言を出しました。しかし、パキスタンやナイジェリア、アフガニスタンなどではまだ流行が見られています。経口感染で容易に感染するので、海外渡航が頻繁な現代、接種率が下がると再流行する危険性も秘めています。

さて、ここからが問題の百日咳のお話です。

百日咳菌に感染すると、最初は風邪の様な症状が2週間ほど続き(カタル期)、その後、菌の出す毒素が咳の中枢に作用して文字通り2-3週間に渡って激しい咳が続きます(咳嗽期)。風邪でも咳込みますが、せいぜい数回であるのに対し、百日咳は切れ目なく連続(スタッカート)し、顔は真っ赤になり息継ぎも出来ないので、唇が紫色(チアノーゼ)になることもあります。咳が少し治まった瞬間に大きな音を立てて「ヒュッ」と息を吸い込む(笛性:whoop)のが特徴です。そのような咳発作が1日何10回も繰り返されます。鼻水は殆ど出ず、喘息や気管支炎でもないのでヒーヒー・ゼーゼーもなく、発熱もありません。その後回復期に入って2-3週かけて咳はゆっくりと軽快しますが、風邪をひくと咳発作が再燃することがあります。文字通り3か月くらい咳の続く病気です。

検査では白血球の数が異常に上昇する傾向があります(2万以上)が、確定的ではありません。血液検査で百日咳抗体や百日咳毒素(PT)を測定する方法もありますが、発症してから上昇するまで少し時間がかかることもあり、初期には診断できないこともあります。最近では喉の粘液を拭って検査するLAMP法が有用です。治療はマクロライド系抗生剤です。内服後5日で感染力は無くなりますが、咳嗽期では咳が続きます。

4種混合ワクチンをしっかり接種していれば乳幼児期で罹ることは滅多にありませんが、免疫力の低下が早いようで、最近、学童期から中高生、成人で百日咳の小流行が見られるようになりました。早ければ小1くらいでも発症する可能性があります。ただ、この年齢では咳は辛いものの、命に関わることはありません。問題はワクチン接種をしていない3か月未満の赤ちゃんが罹った場合です。激しい咳の末に無呼吸発作を起こして命に関わる危険が高くなります。救急病院に居た頃に何例も診ましたが、無呼吸を繰り返して人工呼吸管理になる子もいました。感染経路は殆どが親御さんか年長のご兄弟です。

年長での感染を防ぐためには、大きくなってからもワクチンを追加接種する必要があります。日本では生後3か月から4-8週毎に3回、1歳以後に1回接種して終了します。11歳で受けるのは百日咳とポリオを除いた2種混合(DT)ワクチンです。アメリカでは生後2か月から開始し、年長児の感染を防ぐために4-6歳と11歳にも百日咳ワクチンを接種しています。それを見習って日本小児科学会では5-6歳で1回、更に11歳の2種混合の代わりに百日咳を含めた3種混合ワクチンにすることを勧めています。公費負担がないので任意(有料)接種になりますが、小さな赤ちゃんが生まれる予定のご家族には是非お勧めします。

ワクチンは予防することに意味があるもの。罹ってからでは遅いのです。スケジュールを遅らせないためには同時接種がやはりお勧めです。6種混合(4種混合+ヒブ+B型肝炎)ワクチンの開発も進んでいます。これに行政が対応してくれれば、近い将来は百日咳も生後2か月から接種出来るようになり、スケジュールももっと楽になりますよ。

 

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