クリニック通信

2017年9月17日ことばの呪いと魔法

こんにちは。連休だというのに台風。とあるイベントに参加予定のおかみさんが、「大丈夫かあ、大丈夫かあ、、」と呟きながら早朝出発しました。起きたら私と健兎だけ。いつになく静かな朝です。私は家にいるので、今回の台風も私のせいではありませんよ。多分、、(2013年8月「雨男」「雨男2」、2016年9月「雨男再び、、、」参照)。

世の中言葉が溢れています。必要以上に。言葉は情報を伝えるのにとても大事ですが、人を縛り、操ることもあります。時に悪い方に。

食物アレルギーの認知度が高まったことで、園や学校の意識が高まりマニュアルも整備され、きちんとした対応が出来るようになってきました。一方、ドラマや映画でアレルギーの場面がよく出てくるようにもなりました。演出のためか重症アナフィラキシーとしてばかり。役者さんの迫真の演技と言葉は観ている人たちに不安も与えます。匿名口コミによるネット情報が更に拍車をかけます。「食物アレルギー=アナフィラキシー=少しでも食べさせたら危険?」。不安が増幅し、ちょっとした症状がみんなアレルギーに思えてしまいます。その結果、少しでも気になると除去を始める方がいます。症状もないのに予防しようと、離乳食を遅らせたり、お母さん自身が妊娠授乳中に制限してしまう方もいます。アレルギー学会では、妊娠授乳中の母の制限に予防効果はなく、むしろ赤ちゃんの栄養面に問題がある。遅すぎる離乳食の開始が食物アレルギーの発症率増加につながると警鐘を鳴らしています。食物アレルギーの殆どは軽症で、アナフィラキシーを起こすことはとても稀れなのですが、メディアや噂話による多くの言葉によって「食物アレルギー」と言う言葉にアレルギーを起こすようになった方が増えたように思えます。

身近な人が発する生の言葉は更に強い力を伴います。仲が悪くなった時、周囲に悪口を言い続けると、自分自身の気持ちがより強くなってしまうばかりでなく、負の感情が周りにも伝染していきます。雄弁な人だと尚のこと。それまで気にならなかったのに、悪口を言われた人の態度が気になり始め、段々と嫌になって悪口に参加し始めます。殆ど接することのない人までワイドショー的に感化されて悪口に便乗して来ることもあります。負の感情は人を支配しやすいもの。個人の感情が集団の感情に増幅されて、和が乱れ、人を傷つけ、そして自分が傷ついていきます。

言葉は「呪」でもあります。何故かマイナスイメージの言葉ほど影響力が強いもの。些細な言葉でも使い方を誤ると無用のトラブルに至ります。配慮のない言葉、負の感情の混ざった強い言葉は時に人を不幸にします。私は正直、喋るのが好きではありません。頭で整理する前に言葉が発せられ、心にないことや、荒んだ心で呪を口にしてしまうかもしれないからです。(診療の口下手の言い訳でもあります)。

ただ、言葉は「魔法」でもあります。こどもの「ありがとう」は診療に疲弊した時に力を与えてくれます(実はお母さんの「ブログ読んでるよ」の言葉にも相当元気をもらっています)。「大丈夫」の言葉に笑顔になって帰られるお母さんもいます。「おはよう、有難う、お疲れ様、大丈夫?、お互い様だよ」これらの言葉がどんなに人を笑顔にし、幸せにし、心を近づけてくれることか。何気ない労りの言葉に救われることも少なくありません。先日、採血したお子さんが処置室で泣きながら「ありがと~っ、ありがと~っ」と言っていました。お子さん自身は間違って使ってしまったのかもしれません。でも、普段から「ありがとう」を口に出す習慣がついているんだな、とても優しい環境で育まれているのだな。痛いことしてごめんなさいと思いつつ、口元が緩んでしまいました。

言葉を発する前にそれが「呪」なのか「魔法」なのか、ちょっと考えてみましょう。出来る限り「良い魔法」として発したいものですね。

 

 

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